海外ナンパ師のABC

外国の女性を抱くことについて

Aspiring Fucking Changing~LAナンパツアー前半~

 2015年12月28日から2016年1月3日まで、公家シンジ氏とクラトロ氏が主催するLAナンパツアーに参加してきた。以下の文章は、ツアー支援のリターンとして、両氏が発行したツアー記に、僭越ながら付録させてもらったものである。題して、"Aspiring Fucking Changing"という。お気づきの方もあろうが、題名は、あの80年代初頭を風靡したダサイケロックバンドJourneyの名曲"Lovin` Touchin` Squeezin`"から取ったものだ。曲とツアーはなんら関係がない。楽しんでいただけたら、幸いだ。後半も執筆中なので気が向いたら、このブログにアップしようと思う。熱く、あまりにも短すぎる1週間であった。


Lyrics to Lovin' Touchin' Squeezin' by Journey

 

 ナンパは自己啓発のためのツールだと思っている。一重に主体性を獲得するためだけの闘争だ。僕は長らく主体性を欠いてきた。家庭環境かそれとも生来のものかはよくわからないが、僕の主体性はいつのまにか地中深くに埋もれて出てこなくなってしまった。つらつら語る前に主体性の意味をはっきりさせておかなければならない。僕の考える「主体性」とは、どれほど自分の感情と素直に向き合うことができるか、ということだ。誰にでも感情がある。ただ、自分の感情の流れを明確に掴み取ることができ、それを外部に表現することができる人は案外少ない。何故なら、そういう作業は、ひたすら目の前の残酷な現実と向き合い、傷つくことを嫌わない強靭な精神が試されるものだから。みんな自分が何を考えているのかわからないまま、わかりたくないまま、社会、人の流れに流されていく。流されていくのは心地よい自殺だ。――なんかよくわからないけど不安だ。アマゾンのオススメ商品全部ポチッちゃった。本当のアタシ。道端で声をかけてきた男に言われるがまま、ホテルに来た。セックスした。自分探しの旅へレッツゴー――。

 では、なぜナンパだけが主体性の獲得に役立つのか。決してそうは思わない。自分の感情を揺さぶるようなものであれば、なんでもいい。そして大概の人にとってそれは人間関係だと思う。要は、人とのつながりの中で自分の「本当の気持ち」とか言ったものは見つけられるってことだ。特に男性諸氏に限っては男女関係、女をモノにするのがいかに重要かっていうのは多くの人が賛同してくれることであろう。女は偉大だ。僕を興奮させ、笑わせ、困らせ、傷つけ、苦しませ、そして怒らせる。それらの気持ちと真摯に向き合うことで、自分が本当は何を欲しているのかといった目的が見えてくるものだと思う。女の子を愛する心とかセックスがしたいとかそういった目的は差し置いて、人との関係の中で自分の立つべき場所を探すというのが、少なくとも僕にとってのナンパの意義だと思っている。昔の僕は偉人達の前で身をすくませて、ずっと自分の殻に縮こまっていた。家の外を出たら、僕を傷つける人でいっぱいだ。だから、大学に入学してまるまる2年は家と学校の往復の日々が続いた。自分でもそんな生活はダメだなんてわかっていた。だから、街へ出た。自己啓発物語の始まり始まりだ。ところがどっこい物事はそんな簡単に進まない。半ひきこもりだった僕がいかにしてPUAになったかなんて触れ込みを出したら、ミリオンセラー間違いなしだ。だけど、現実は違う。僕は街を歩く女の子達に一斉チンピクしなかった。なんていうかみんな幼女に見えた。何を隠そう僕は引きこもっている間に白人好きに変貌していた。がっしりした骨格、それを覆うふくよかなお肉(デブ専じゃあない)。女の曲線。青や緑の瞳。僕の理想の女像は白人であった。詳細はブログを見てもらいたい。なんか恥ずかしいのでリンクは載せません。とにかく、僕は白人の女を探し求めて昼夜歩いた。しかし、歩けども歩けども彼女たちは現れない。それもそうだ。ここは日本。かつての大東亜共栄圏の盟主、Samuraiの国、大和国家だ。そして、そこに住む女の大半が大和撫子だ。

 こうして、毎日、何時間も白人女を探しては諦め、時々、発見しては地蔵しての生活を繰り返すうちに、だんだんとナンパから離れることになったのは自然の成り行きであった。僕は自分を変えるための最後の砦からも見放された。

 ある日の夕方、いつものように、何1つ収穫がないまま、僕はトボトボと路地裏を歩いていた。寂しさと情けなさに押しつぶされそうになりながら、誰もいない路地をひたすら歩き続けた。晩秋の木枯らしが僕を責めるように吹き付けてくる。お前は何をしている。その年で、隠遁老人みたいにお散歩生活を続ける気か。このAFCめ!

 すると、どこからやってきたのか、風に飛ばされた1枚の古ぼけた紙が僕の足にからみついた。拾いあげて読もうとするも染みだらけでほぼ解読不能だ。しかし、一文だけははっきりと読み取れた。

 

 「求ム! 戰士! 股閒ノ竹槍デB弐十九ヲ撃墮セヨ!!」

 

 面白そうじゃあないか。

 

 時は飛んで、12月30日。僕はLAのPerchというルーフトップバーの柵に寄りかかってビールを飲んでいた。前方を見やると、竹槍軍の大将公家シンジがズンズンと僕の方に近づいてきていた。真顔だ。僕の前で止まって一言、言い放つ。

 「自分、何してるん?」

 彼は怒りともなんともつかない表情で僕を真っ直ぐ見つめてきた。とっさのことで、僕は口籠ってしまう。

 「女の子放ったらあかんよ」

 横では、アジア系の女の子が2人何やら話している。金髪と黒髪の2人組だ。金髪の方は参加者のラッチョさんが担当していて、黒髪は僕の担当だった。金髪はラッチョさんを異常に気に入っていて、セパりたがった。ラッチョさんの腕に抱きついた彼女は僕の目を見てウィンクする。

(アタシは彼とヤルから、あなたはこの子をヤッちゃって!)

誰が見ても明らかなメッセージだった。しかし僕はビビリにビビった。こんな物事がトントン拍子に進むなんて予想だにしなかった。初めてのコンビナンパの感動、戸惑いとか色々な感情で僕の脳みそは完全にショートしていた。狼狽えたまま、金髪に急かされるまま僕達はセパを開始する。

「あなたは何の仕事をしているの?」

黒髪が僕に尋ねる。

「ギタリストだよ」

嘘です。ギタリストなんかじゃない。ただの学生だ。

「スタジオギタリスト?プロのコンサートとかでも弾くの?」

「……」

 自分の仕事の設定なんて全く考えていなかった。適当に即席の言い訳で難を逃れるも、2人の間の空気が少し淀んだのは明らかだった。その後も、当たり障りのない会話を続けるが、どんどん気まずくなっていく。今考えてみると、僕は逃げ腰だったし、我々の本来のターゲットではないアジア系の女の子だったから乗り気でもなかった。しかし、相手が誰であれ全力でコミットするのが筋であった。本当のことを言うと、彼女が僕のことをどう思っているのかを知るのが怖かった。私にはふさわしくない。つまらない男。自分の胸の中がどんどんこわばっていくのを感じる。僕はそれから逃れたい一心で戦線離脱した。そしてシンジさんは戦闘を放棄した自分に怒った。

 PUAは常に主体的でなければならない。僕はビール片手にバーを見回す。みんな友達連れで楽しそうに談笑している。PUAとしてこの場に来た者は我々竹槍軍だけであった。メンバーは皆、いつのまにか下の階に移動していて、僕は取り残された。そのバーはPUAに見捨てられ、Abandoned Frightened Chickenが1人佇んでいるだけであった。

 

 1月1日。僕達はさしたる結果も出すことなく、泥沼戦へと突入していた。場所はダウンタウンのルーフトップバー、The Standardだ。僕は突撃隊長のロデオさんを観察していた。彼は初日から勢いを衰えさせることなく、活発に声掛けし続けていた。例え、目のくらむような美女のグループであろうとお構いなしにぶっ込んでいく彼の姿にどれほど勇気づけられたことか。同時に、一心不乱に声掛けを続けるその背中からは、彼の苦々しい過去の記憶も読み取れた。もしかしたら、彼自身、声をかけるのを怖がっていたかもしれない。しかし、そんな恐怖をはるかに凌駕するような強い信念が心の奥底に流れていたはずだ。彼は、自分の意志でこのLAまで来て、自分1人でもなんとか道を切り開こうともがいていた。たいして僕は、なけなしの金でLAまで来たのにも関わらず、ずっと何かを待ち続けていた。チャンスが来ても逃げ続けてきた。正直言ってどん詰まりでどうしようもなかった。ロデオさんは息をつく暇もなく、周りの集団の中につっこんでいく。カウボーイハットにサングラス、そして首に巻いたファーが強烈に似合っていた。声をかけるごとに、人々はそれを褒め、瞬く間にグループの中のスターへと変貌していく。僕は為す術なく立ち尽くす。インディアンがかぶっていそうな羽のついたマスクを頭にかけていたが、誰も気にかけるものはいなかった。僕は自分のマスクに負けていた。LAに来れば何かが変わるとでも期待していたのか?なんにも変っちゃいない。何のためにここにきた?一日中馬鹿みたいに突っ立って、バーで仲間の活躍をぼんやり見つめるために?ジコケーハツとやらはどうなった?

 ふと、顔を上げると、ある女の姿が目に入った。人の輪から少し外れて1人楽しそうに踊っている。銀色の派手でピチピチなドレスが彼女の体の動きに合わせてクネクネ曲がり、バーのライトをキラキラと反射させていた。いい体だ。考える暇もなく、僕は彼女に突撃する。

  “Hi!”

  “Good Evening! Nice mask!”

そう言って彼女は僕のマスクを触る。――Good Evening IOI.

 僕達はしばらく立ち話をしていた。何を話したかは覚えていない。とにかく彼女を引き止めることだけに注力した。僕が話している間に、竹槍軍のメンバーは別のタゲを探しに、Perchへいってしまった。僕を怒ってくれるシンジさんも、アドバイスをくれるクラトロさんもロデオさんもいない。孤軍奮闘だ。不安はあまりなかった。これを逃したら二度とチャンスがないのは明らかであったし、彼女の楽しそうな顔を見ていると不思議と行ける気がした。

 ある程度和んだところで、彼女の肩を抱いて、人気のないソファへと連れていく。食いつきは十分あった。ルーフトップバーの風は強い。ミニスカートを履いていた彼女は寒そうにしていた。僕は彼女の腿にそっと手を置いた。

「寒そうだし、屋内で飲まないか」

「どこかいいところ知っているの?」

「俺はビバリーヒルズに部屋をとってるんだ」

彼女は無言で微笑む。

「暖かいし、広いから君の好きなダンスも踊れるぜ。Japanが生み出した世界最高のビール、KIRINも置いてある」

彼女はお金持ちには見えなかった。その証拠にマリファナ中毒のホームレスが闊歩するダウンダウンに住んでいた。連れ出しの説得力としては抜群のはずだ。

「あれ?私の友達はどこ?」

僕の言葉を無視するように、彼女は立ち上がった。とっさにロデオさんの言葉が脳裏に蘇る。

「女の子を一度セパったら、再び友達にくっつけちゃいけない。女の子が取る行動の主導権は常に握っておけ」

完全にまずい流れだった。突然のことにひるんで硬直してしまう僕にお構いなしに、彼女はスタスタと歩き始める。僕の脳内は再びショートを起こす。彼女を友達に会わせていいのか?無理矢理止めたりしたら、機嫌を悪くさせるのでは?どの言葉が彼女を止めるのに最適か?

 僕はまたしても嫌われるのを恐れた。アホのように彼女の後をついていく。友達はウォーターベッドでじゃれ合っていた。彼女はそこに飛び込み、楽しそうに彼らと自撮りを始める。僕はといえば、ウォーターベッドの側で突っ立って,ぼんやりとその光景を見ていた。最高にダサかった。完全に自分の心の弱さが招いた結果だった。AFCもここまで極まると清々しい。PUA公家シンジとPUAクラトロの顔を思い浮かべる。僕はLAにPUAとしてきたはずだった。日本でも草分け的な存在の2人とナンパできるのは光栄極まりないことだったし、彼らが率いる日本代表として、その名に恥じない男でなければならなかった。彼らがAlternativeでFakeでConvenientな男に落ちた今の僕の姿を見たらどう思っただろう。

 泣きそうになりながら、ふと横を振り向くと、目がくらむようなモデル体形の美青年が立っていた。Selfieに勤しむ彼らをぼんやりと眺めている。彼は、彼女の友達の1人であり、自分はゲイだと言った。

“How can I fuck her?”

彼女を指さして、本当にアホみたいな質問を彼に投げつける。ゲイの男に、どうやったら女をヤレるか聞き出すなんて、この先2度と経験することはないだろう。それほど僕は絶望していた。

 “Just tell her you wanna bang! Fuck her!”(パンパンしたいってそのまま伝えてファックすればいいだろ!)

彼は呆れたように吐き捨てる。

“Thanks, man.”

 もう失うものはなかった。僕は1度彼女に捨てられた。そして、AFCとして彼女の下僕のようにつきまとっている。これ以上の屈辱はない。終わりだ。帰ろう。

 しかし、なんと憎たらしい我が女王はもう1度チャンスを与え給うた。さっきまで矯声を上げながら自撮りに夢中になっていたのに、急に冷めた顔つきになってトイレへと向かっていった。咄嗟に、ショートしてすっかり焦げ付いてしまった頭を整理し直し、計画を練る。制限時間はあっても5分ほどだ。

 彼女がトイレから出てきた。こちらには気づいていない。僕も彼女には気づいていないふりをする。そして絶妙なタイミングを見計らって目を合わせ、長年離れ離れになっていた親友を見つけた時のような、驚嘆と歓喜の顔を作ってみた。

 “Hey!”

彼女が微笑んだ。

 “I wanna fuck you.”

――とは言わなかった。

 “It`s been so long, my friend! Why not drinking together? I wanna hear how you were dong!”(久しぶりだな友よ!一緒に飲まん?元気にしてた?)

 “Hahaha. Sure! Let`s get some alcohol.”(もちろん!飲みましょ!)

 僕は彼女の手を引いてバーへ行く。僕は1番安い8ドルのビールを、彼女は12ドルのパイナップルのカクテルを頼んだ。財布から8ドルを出し、後ろを振り返るも彼女は直立不動のまま僕をじっと見つめ返すだけだった。まずい、こいつ俺に払わせる気だ。僕の頭の中の回線がまた熱くなっていく。これは払うべき?彼女はただ酒目当て?どうやって断ったら雰囲気を壊さずに済む?もうナメられちゃいけない。公家シンジならどうする?クラトロならどうする?畜生なんたって高いカクテルなんか頼みやがるんだ!俺はギタリストなんかじゃない。LA行きの航空券に全財産はたいた、ただの学生だ!

 “12!”

バーテンがそう言い放って僕を見つめる。彼女も僕を見つめる。また僕は負けた。自分の財布から12ドルが離れていくのをぼんやりと眺める。どこぞの即れるかも知らない女にまんまと財布を開いてしまうAssholeでFoolishでCheapな男とは僕のことであった。

 これ以上こいつに負けられない。鼻を噛んだティッシュのように捨てられ、金も取られ、引き下がるわけにはいかなかった。僕はファックしたいのではなく、ファックしなければならなかった。

 カクテルを片手に持ち、音楽に合わせて楽しそうに体を揺らす彼女の腰に優しく手を回し、求愛の言葉を囁く。彼女に何を言ったかは覚えていない。とにかく、何故自分たちがビバリーヒルズで2人っきりでダンスをすべきなのかをゆっくりと、しかし熱をこめて語っていた気がする。何か気のきいたことを言おうと頭を悩ませる必要はなかった。僕はその場の流れに身を任せて、ひたすら頭の中に浮かんでくることを彼女の耳に流し込んだ。彼女は心地良さげに耳を傾けて、微笑んでいた。

 僕は、彼女の左手にあったカクテルを手に取り、テープルに置いた。そして、彼女の手を握ってゆっくりと出口へと向かう。

 「友達に先に帰るって伝えなくちゃ」

 「そんなのは後でメールすればいいだろう。彼女達はウォーターベッドで楽しんでいる。邪魔しちゃダメだ。俺達は俺達でビバリーヒルズを楽しもうじゃないか」

 緊張が全くなかったかといえば嘘になる。今に至るまで何度も不測のじたいを経験してきた。これから起きない保証はない。最後の関門はUberであった。Uberとは、世界中で人気を博している配車サービスで、スマホの操作1つで、運転手が自分がいるところまで直接迎えにきてくれる画期的なサービスだ。しかし、現代科学の賜物といえど何かしらのミスはありえる。その間に彼女が冷めてしまったらどうしよう。僕は震える手でスマホを操作した。

 運転手に僕の思いが伝わったのか、割とスムーズに迎えに来てくれた。彼女を奥に入れて、その隣に座る。10分ほど経つと、僕らはダウンタウンを出て高速に入っていた。後ろを振り返ると、ギラギラと輝くダウンダウンの高層ビル群が小さくなっていくのが見える。シャブ中が闊歩する小汚いストリート、夜伽を求める男女が入り乱れるバー、彼らの欲望を照らしだし光輝く巨大なビル群。そんなダウンタウンはすでに遠く離れ、1つの小さな光となり、今にも消え入りそうだった。

 僕は彼女の方を振り返り、優しく抱き寄せ、そしてキスをする。ちょっとだけ。ちょっとだけPerfectでUnbelievableでAmazingな気分だった。

 

                                    酋長