海外ナンパ師のABC

外国の女性を抱くことについて

"I love Japan"な白人女達、おかず大国Japan

  

 "I love Japan."

 

 僕の前に座って、お茶をすすっていたドイツ人の女の子は笑顔でそう言った。

腑に落ちない答えだなと思いながらも、いつものことなので、それ以上追求することをやめる。

僕が聞きたかったのは、長期であれ短期であれ、どういう経緯で日本に移住しようと思ったのかということだ。

以前は、好奇心から「日本のどんなところが好きなのか」とか、更に問い詰めたが、彼女達は明確に答えようとしない。というかできない。決まってこう言う。

「お寺とか文化とかファッションとかアニメとか……、とにかく日本の全部が好きなの」

ちょっと乱暴すぎやしないだろうか?

でもこんなふうに答える外国人の女の子は実際に何人もいる。何故か欧米で生まれた白人の若い女の子達。白人であるにも関わらず、なんとなく格好とか物腰とかが日本人の女の子っぽいのも特徴だ。そして、自分の生まれた国があまり好きじゃない、戻りたくないという。

 

何度もそういった「日本大好き」白人女子に会ってみると、次第に彼女たちの意図せんことが伝わってくる。彼女達に「日本という国を意識しはじめたのはいつ頃からか」という質問を投げかけると、小さい頃テレビで見たセーラームーンだったり、ポケモンのゲームの話を嬉々として語り始める。つまり、彼女たちは、幼少期の幸せな思い出と日本をごっちゃにしている。「日本」について考えることで、退屈な今とは全く違った幸せな子供時代を思い出すことができる。自分の中に軸がなかったり、周りの現状に満足していないがために、「日本」に避難するという幼児退行。「日本を愛する」ことで、現実を拒絶する自慰行為。彼女達の目線の先にいるのは彼女達自身であった。

 

東浩紀編の『日本的想像力の未来』に収録されている日本文学研究家キース・ヴィンセントの講演の中にあった言葉は、そのことを端的に指摘している。彼が教鞭を取る大学の日本語学科では、アニメが好きだとかいう生徒達が押しかけるものの、日本文学の学習等、「日本を研究する」姿勢は感じられないという。

 

「日本語専攻の学生の多くは、何か無意識のレベルで、日本で勉強したら自分の子ども時代をもう一度追体験できるのではないかと夢想しているフシがあります。」

日本的想像力の未来?クール・ジャパノロジーの可能性 (NHKブックス)

日本的想像力の未来?クール・ジャパノロジーの可能性 (NHKブックス)

 

 

僕は日本を愛する白人女子ではないが、彼女達の気持ちはわかる。自分自身もそういうところがあるからだ。僕にとっての「日本」はアメリカだった。つい最近まで、なんとなくアメリカに移住することを考えていた。その考えは、今でも心の隅っこにしつこくこびりついたままだ。だが、アメリカが僕を愛してくれないのは疑いようのない真実だ。

 

横で寝ている彼女にもう一度同じ質問を投げかける。

「なんで日本に来たの?」

 

彼女は目を閉じたまま呟く。

 

"I love Japan."

 

その寝顔に思わず目を背けてしまう。

 


Pain of Salvation - Iter Impius